東京高等裁判所 昭和48年(行コ)32号 判決 1976年2月26日
栃木県宇都宮市川向町七五二番地
控訴人
株式会社 丸武
(旧商号株式会社安斎商店)
右代表者代表取締役
安斎武男
右訴訟代理人弁護士
佐久間渡
同
大木市郎治
栃木県宇都宮市昭和二丁目一番地
被控訴人
宇都宮税務署長
加藤茂夫
右指定代理人
中島尚志
同
平塚慶明
同
丸山豊一
同
船津幸雄
右当事者間の法人税額等の再更正決定取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対して昭和四一年六月二九日付でした(一)自昭和三五年九月一日至同三六年八月三一日事業年度分、自同三七年九月一日至同三八年八月三一日事業年度分、自同三八年九月一日至同三九年八月三一日事業年度分、自同三九年九月一日至同四〇年八月三一日事業年度分の各更正決定及び各重加算税賦課決定(二)自同三六年九月一日至同三七年八月三一日事業年度分の再更正決定及び重加算税賦課決定を、それぞれ取消す。訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人指定代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する(ただし、原判決二枚目表五行目及び七行目の各「更生決定」を「更正決定」と訂正し、八枚目裏一行目の「加空名義」を「架空名義」と訂正し、別表一の(二)の更正欄の「三、四八八、一八七」を「二、四八八、一九七」と訂正する。)。
(控訴人の主張)
(一) 原判決一一枚目表四行目の「昭和三一年」を「昭和三二年」と改める。
(二) 大森ミヨは、安斎武男から借受けた一五〇万円をもって、昭和三二年九月一六日、五味佳助から宇都宮市宿郷町字塚田二二二番三宅地八四九・七一平方米を買受け、また、英栄次郎は、安斎武男から借受けた五〇万円をもって、同二八年七月二四日、東京都台東区寿一丁目四番二〇宅地七二・七二平方米を買受けたのである。
(被控訴人の主張)
(一) 原判決七枚目裏一行目の「昭和三七年」を「昭和三八年」と改め、別表一の係争第一ないし第五年度の各異議申立欄の「国税通則法七九条二項二号」を「国税通則法七九条二項二号(昭和四五年法律第八号による改正前のもの)」と改め、別表二の係争第二ないし第五年度の各4(営業費)の差額理由欄の「事業税認定損」を「前期分事業税認定損」と改め、別表三の(3)(係争第三年度)(ロ)(定期預金)の順号4、6、9及び12の各備考欄の「11書替」を削除し、同表の(4)(係争第四年度)(ロ)(定期預金)の順号3、5、7、9、11及び13の各備考欄の「11」を削除し、同表の(5)(係争第五年度)(イ)(定期積金)の順号1の期中払戻高・年月日欄の「39.123」を「39.1221」と改め、同(ロ)(定期預金)の順号3の番号欄の「て9735」を「て9736」と改め、同順号5の番号欄の「て9736」を「て9735」と改め、同順号3、5、7、9、11、13及び15の各備考欄の「11」を削除する。
(二) 重加算税賦課決定の根拠
控訴人は売上を除外して、これを架空名義の預金とし、更に、この預金の書替に際しては、複雑に分離して書替えることにより、その預金者の住所を発見され難い、無関係な所に仮装したものであるから、控訴人の右の行為は、係争第一年度については、課税当時の法人税法(昭和三七年法律第六七号による改正前のもの)第四三条の二第一項、係争第二ないし第五年度については国税通則法第六八条一項にそれぞれ該当し、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したものとして、係争第一年度については、増加した税額に一〇〇分の五〇、係争第二ないし第五年度については、増加した税額に一〇〇分の三〇の割合をそれぞれ乗じて計算した重加算税を課したのである。
(当番における新たな証拠)
(一) 控訴人代理人は、甲第一〇ないし第一二号証を提出し、当番証人大森ミヨ、同英ハツイ、同安斎秀明、同堀江五男、同安斎ミネの各証言及び当番における控訴人代表者尋問の結果を援用した。
(二) 被控訴人指定代理人は、甲第一〇、一一号証の各成立は認めるが、同第一二号証の成立は知らない、と述べた。
理由
一 当裁判所も控訴人の請求は棄却されるべきものと判断するものであるが、その理由については、次に付加訂正するほか、原判決と同様であるから、原判決の理由(原判決一四枚目表末行目から二四枚目裏九行目まで)を引用する。
1 原判決一六枚目表一行目の「判断するに、」の次に「成立について争いのない甲第一〇、第一一号証によれば、大森ミヨ、同義夫及び長山ヒロが、昭和三二年九月一六日、また、英栄次郎が、同二八年七月二四日、控訴人主張の各土地を、それぞれ買受けたことが認められるところ、原審及び当審」を加え、二、三行目の「ならびに」の次に「原審及び当審における」を加え、四行目の「昭和三一年ころ」を「昭和三二年ころ右土地の購入資金として」と改め、八行目の「昭和二八年」の次に「ころ右土地の購入資金として」を加え、一六枚目裏二行目の「商人」を「控訴人から受取る給料及び土地、建物の賃料も、富士銀行宇都宮支店に預入れるなどしている(当事者間に争いがない。)ほどにき帳面な商売人」と改め、四行目の「ミヨ」の次に「及び英栄次郎の妻ハツイ」を加え、五行目の「不自然であり、」の次に「また、大森家では、安斎武男からの右借受金一五〇万円のほか、昭和三三年ころ、同人が連帯保証人となって、茂木相互銀行からアパートの建築資金二〇〇万円を借受けたというのである(当審証人大森ミヨの証言)が、そうだとすれば、大森家では、同銀行に対して右二〇〇万円とその利息を返済しながら、更に、安斎武男からの、右借受金一五〇万円とその礼金四五万円を支払ったことになるが、そのような余裕のあったことを認めるに足りる証拠はなく、英栄次郎についてもまた、安斎武男から、右五〇万円を、利息は要らないから、できるだけ早く返して欲しいといわれて借受けたところ、その返済のため銀行に日掛貯金をし、満期にはさらにそれを積立てるなどして、右五〇万円とその礼金一〇万円を調達して返済したが、右礼金に相当する一〇万円を積立てるのに約二年ぐらいかかったというのである(原審及び当審証人英ハツイの証言)が、商売人である安斎武男に対するこのようなゆう長な返済の仕方は余りにも不自然であり、」を加え、一七枚目表四行目の「一、四八二万五、五〇二円」を「一、四五〇万五、五〇二円」と訂正し、同裏六行目の「証人安斎ミネの証言および」を「原審及び当審証人安斎ミネ、当審証人安斎秀明の各証言並びに原審及び当審における」と改め、八、九行目の「安斎武男の営業上の知識等を利用して」を削り、一八枚目表二行目の「一方」を「前記証拠に加え、成立について争いのない乙第一号証の一、同第四号証の七によれば、甲第九号証(安斎家生活資料)は、安斎家における昭和四六年九月ころから同四七年五月ころまでの間の食料品の購入価格について安斎ミネらの記憶に基づいて作成されたものにすぎないし、また例えば、食料品の卸売を業とする控訴人の同三八年八月末日現在のみそ(金山寺)の購入価格が一キログラム当り九三円であるにもかかわらず、同号証では、その八年後におけるみそ(金山寺ではないとしても)の購入価格が一キログラム当り九〇円となっていることなどに照らして、同号証はたやすく信用することができず、」と改め、四行目の「おいては」の次に「、食費が」を加え、七行目の「証人安斎ミネの証言および」を「原審及び当審証人安斎ミネ、当審証人安斎秀明の各証言並びに原審及び当審における」と改め、一八枚目裏六行目の「五六三万九、四五〇円」を「五六三万九、二八〇円」と訂正し、一九枚目表二行目の「三一万九、三三二円」を「二六六万九、三三二円(被控訴人主張どおりに計算した場合には四九二万六、二九六円)」と改め、一九枚目裏一〇行目の「同月三日」を「同月三一日」と訂正し、二〇枚目表四行目の「訴外二」を「島広商店と堀江」と訂正し、一〇、一一行目の「原告会社代表者の供述」を「当審証人安斎秀明、同堀江五男の各証言、原審及び当審における控訴人代表者の各尋問の結果」と改め、同裏二行目の冒頭から五行目の「いわざるを得ない。」までを「仮に、控訴人の主張どおりの事実が認められたとしても、控訴人は、法人税に関して青色申告の承認を受けている法人であって、右取引代金は、いずれも島広商店から控訴人にあてて送金されていたことは当事者間に争いがないところ、本件全証拠によっても、控訴人が、右自己あてに送金された取引代金について、その処理状況を明りょうにするために、これを帳簿書類に記録したり、あるいはその内容を記録する手控程度の資料さえも作成していた事実を認めることはできない。そうすると、控訴人については、経理事務処理の面においても、その売上げを容易に除外できる状況にあったものといわざるを得ない。」と改め、二一枚目裏二行目の「黒崎キミ」の次に「(せ八、八四〇)」を加え、二三枚目表三行目の「一二月三日」を「一二月二一日」と訂正する。
2 二三枚目裏三行目の次に次の文章を加える。
「4 さらに、成立について争いのない乙第三五、三六号証、同第四〇号証、同第四二号証及び原審証人荒井一夫の証言によれば、安斎武男は、本件架空名義預金のうち、黒崎ミネ名義の昭和四〇年二月四日付預金番号・と一、六七〇、預金額五五万五、四一五円(別表三の(3)(ロ)の順号4の同三八年一月一八日付預金番号・そ七、五一九、預金額五〇万円が一年ごとに書替えられたもの。)、黒崎和雄名義の同四〇年二月四日付預金番号・と一、六六九、預金額四六万六、五一四円(別表三の(3)(ロ)の順号6の同三八年一月一八日付預金番号・そ七、五二一、預金額四一万九九七〇円が一年ごとに書替えられたもの。)、吉田和彦名義の同四〇年二月四日付預金番号・と一、六六七、預金額五五万五四一五円(別表三の(3)(ロ)の順号9の同三八年一月一八日付預金番号・そ七、五二〇、預金額五〇万円が一年ごとに書替えられたもの)及び長山朝夫名義の同四〇年二月四日付預金番号・と一、六六八、預金額五五万五四一五円(別表三の(3)(ロ)の順号12の同三八年一月一八日付預金番号・そ七、五一八、預金額五〇万円が一年ごとに書替えられたもの)を、いずれも同四一年二月二一日に解約し、右払戻しを受けた元利合計二二四万円余のうち、一二七万円余については、安斎ミネ、同秀明、その他の安斎家の家族名義の普通預金に預入れ、その余の九七万円については、右預入れの明細を記載した封筒の中に入れて、控訴人の事務室の金庫の中に保管していたことが認められ、原審及び当審証人安斎ミネの各証言並びに原審及び当審における控訴人代表者の各尋問の結果中右認定に反する部分は、前顕証拠に照らしてたやすく信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。」
3 二三枚目裏四行目の「4」を「5」と改め、同行目の「安斎」の次に「武男」を加え、九、一〇行目の「争いがなく、」の次に「原審における」を加え、二四枚目裏二行目の「3の(二)」を「(三)の2ないし4」と改め、四行目の「方法を用い」の次から五行目の「なかった」までを「方法を用いたりなどした挙句、これを解約して払戻しを受けた元利金を家族名義の普通預金に預入れたりなどした」と改める。
二 結論
1 本件各係争年度における本件架空名義の預金額が各六〇万円(ただし、第二係争年度は五五万円。)であり、また本件架空名義の預金から発生し、払戻しを受けた利息額は、第一係争年度六万〇、六一〇円、第二係争年度八万二、三二四円(ただし、三万三、〇〇〇円については同年度中に払戻しを受けていない。)、第三係争年度一三万二、六二〇円、第四係争年度一四万八、五四二円及び第五係争年度一八万八、五〇四円であることについては、当事者間に争いがないから、控訴人の提出した本件各係争年度の法人税確定申告書には、右各預金額相当の売上計上もれか、また右各利息額相当の雑収入もれ(ただし、第三係争年度については九万九、六二〇円。)があったものというべきであって、被控訴人が、右の範囲内で、法人税法(昭和四〇年法律第三四号)第一三〇条、国税通則法第二四条又は第二六条の規定に基づいてした本件各更正決定又は再更正決定(ただし、第二係争年度分。)は、いずれも適法である。
2 控訴人が、前記各売上げもれ及び雑収入もれのある確定申告書を提出していたことは、第一係争年度分についてはいわゆる旧法人税法(昭和二二年法律第二八号・昭和三七年法律第六七号による改正前のもの。)第四三条の二、第一項所定の「法人が課税標準又は法人税額の基礎となるべき事実を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づいて、」第二ないし第五係争年度分については国税通則法第六八条第一項所定の「国税の課税標準等又は税額等の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づいて」納税申告書を提出していたものというべきであるから、被控訴人が右各規定に基づいてした本件各重加算税賦課決定は、いずれも適法である。
3 以上の次第であるから、控訴人の本請求はすべて失当である。
よって控訴人の本訴請求を排斥した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 桝田文郎 裁判官 福間佐昭 裁判官 古館清吾)